かつてはアメリカ村と呼ばれモダンな空気の流れていた田並も、やがて過疎化が進み現在に至る。『田並劇場』もいつの頃からか閉鎖され、その後、土木会社の飯場や倉庫兼住宅などとして活用されてきたが、全く人の手が入らなくなって10年程の月日が経つ。蔦が覆い、屋根は穴が空き、雨水が建物の中に侵入し、壊れた壁からは野良猫や狐狸が出入りしている状態であった。
 そんな『田並劇場』を、もう一度文化的な交流スペースとして蘇らすことはできないかと、リノベーションし活用しようというのが『田並劇場再生プロジェクト』である。
 廃墟と化している『田並劇場』、かつては文化的な刺激を、周囲の人々に与え、今でもその思い出を持った人たちがいる。その頃は、地方でもそれなりの人口がいて、劇場や映画館が小さな町にでもあった時代である。やがてテレビが普及し、劇場離れがおき、小さな町からは劇場が消えていく。テレビの普及で、地方の文化的(世俗的)な情報格差は少なくなったかのように思われるが、実際の生の文化に触れる機会というものは確実に地方からは失われていく。主に都市部から発信されるテレビやラジオの情報は、田舎の若者たちを都市部に向かわせる動機の一つにもなっただろう。田舎では大学も仕事も無いのだから、若者が都市部に出て行くことは仕方が無いのだろうが、マスな情報が都市部から発せられるという流れも、現在の過疎化の要因の一つである。

 『田並劇場再生プロジェクト』は、田並の文化的な遺産でもある『田並劇場』を復活させるプロジェクトであると同時に、地方に生の文化をもたらす場として、そして地方から新たな文化を作り発信していくことの意味を探るプロジェクトでもある。
 今現在の、お年寄りたちが『田並劇場』の思い出を語るように、今この地域に住む子供たちが、生の文化に触れ、地方でも地方なりの文化を育み、発信していけることを体感し、将来的に都市部に出て行った子供たちが、再び故郷に戻ってくる動機を育むことも視野に入れたプロジェクトである。

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